昔々のことじゃった。
北の大地の、さらに北の奥まった小さな町に温泉宿あったんじゃ。
そこの湯船の壁からライオンの顔が飛び出てて、
そのライオンの口からモーモーと温泉が出ていたんじゃ。
だから湯煙で周りが見えなかったんじゃ。
そんな、ある日のことじゃった。
更衣室にスリッパもなく、
今日はワシだけの貸切じゃ!と、
モーモーと湯煙の中に入っていくと、
湯船の向こう側に、黒ぽっい服と帽子を被った人がお湯に浸かっているように見えた。
その時、思い出した。
よく兵隊さんが、傷を癒しにお風呂に入りにきてるのを何人か目撃していることを。
目を凝らして見ると、
その兵隊さんらしき人が見えなくなった。
ワシの体は温まるどころか、
恐怖でひえてしまった。
それは戦後20年経った頃の話じゃ。
画像:ライオンの注ぎ口から源泉が。
戦いでの傷は癒せない。
*****************************
下記に参加しています。
0コメント